12月20日 <住友セメント事件、一審東京地裁が結婚退職制に対し違憲判決(1966年=昭和41)>

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1966年(昭和41)のこの日、東京地方裁判所で争われていた、住友セメントでの女性結婚退職制による解雇を不当として起こした裁判に対して、憲法に踏み込んだ判決が出されました。

これは昭和時代の出来事です。少し詳しく覗いてみましょう。

これは8分程度で読める記事です。
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1.解説

 

その昔、我が国の女性労働者には幾つもの不思議な制度がありました。

その1つが結婚退職制で

「女性の労働者に、結婚という身上の変動があった場合に、それを理由として退職させる制度」

でした。その他にも「女子若年定年制」というのもありましたが、ともに、女性の労働者に対する差別的取扱として、第2次世界大戦後の早い時期から、重要な問題として各方面から関心がもたれていました。

 

この制度に対する当時の労働省の行政解釈には、以下の様なものでした。

就業規則中に「女子従業員が結婚したときは、自然に退職となり、従業員の身分を失う」と規定した場合について…

質問:「右のような規定を就業規則中に定めることは、いわゆる男女同権の理念より考えれば望ましからぬことであり、又そのように指導すべきものとは思うが、これを労働基準法上のみに限って考えれば、労働基準法中には抵触する条文は何もなく、使用者が事業経営上、どうしても必要な措置であると主張する場合は、行政官庁としては如何ともし難いと考えられるが、どうであろうか」

同省婦人少年局は

「女子は結婚した場合退職する、という規定を就業規則その他に定めて実施した場合、労働基準法の規定に違反するかどうかについては、労働基準法中には抵触する条文はありません。しかしながら、退職に関して男子と女子に差別を設けることは、日本国憲法第14条の趣旨に照らし望ましくないことであるから、貴職において宜しく御指導下さるよう願ます」

(1956年(昭和31)1月21日)

という回答を出しています。

当時の我が国の労働法学界の見解では

「結婚退職制をもって、労働基準法4条には違反しないが、憲法14条の趣旨からみて、民法90条にいう公序良俗に違反し、無効である」

とする学説が支配的でした。

 

このようなな結婚退職制について、裁判所の判例として初めて出されたのは、1966年(昭和41)のこの日の東京地裁の住友セメント事件に対する判決でした。従来から注目されていた事柄についての判例ということもあり、ことに憲法学・民法学・労働法学などの学界だけでなく、実業界も注目の判決でした。

 

この住友セメント事件は、住友セメント(現在の住友大阪セメント)に勤務していた女性が、1963年(昭和38)12月に結婚したのに端を発します。住友セメントには以前から女性職員結婚退職制がありましたが、1963年(昭和38)6月に同社労働組合が団体交渉で会社側にその制度の破棄を申し入れ、同年10月には女性社員全員が要望書を会社に提出した経緯がありました。原告の女性は同年12月に結婚後、件の要望書を会社に提出していたので、結婚しても退職を申し出ませんでした。

ところが翌1964年(昭和39)3月、会社側は原告の女性に解雇の通告をしてきたため、彼女は、会社を相手取り東京地方裁判所に雇用関係確認請求訴訟を起こしました。

 

原告の女性の主張は以下の3点にあります。

  1. 結婚退職制は合理的理由がないから無効である。
  2. 結婚退職制は就業規則に違反するから無効である。
  3. 結婚退職制は公序良俗に違反するから無効である。

第三の主張はこんな内容でした。

「憲法は、すべての国民に、基本的人権の享有(11条)、生命、自由 及び幸福追求の権利(13条)、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(25条)を保障し、性別による差別待遇を禁じ(14条)ており、これをうけて労働基準法は、人たるに値する生活を営むための必要を充たすべき労働条件(1条1項)、均等待遇(3条)、男女同一賃金(4条)、産前産後の解雇制限(19条)、産前産後の休業等(65条)、育児時間(66条)などを規定して、憲法上の保障を具体化している。これらの規定により、男女を問わず、労働者に対し結婚の自由およびこれの実質的な裏付けとして結婚後も引続き労働に従事できること、ならびに人たるに価する生活を営むための労働条件が保障されることはいうまでもない。結婚の自由は、公の秩序に関するものである。さらに、結婚は善良の風俗として社会から是認されるべきである。それ故使用者もまた未婚労働者の雇入れに当り、それが結婚することを当然予想すべきであって、労働契約の締結、存続に際し、結婚したことの故に不利益な取扱をすることは許されない。ましてや、女子労働者のみに、かかる取扱をすることは、性別による差別待遇である」

 

 

これに対し被告会社は「女性は結婚後は家庭本位になり、欠勤が増え、労働能率が低下する」として「企業の合理性の維持促進と言う業務上の必要性から正当な措置」と主張しました。

 

東京地裁は次の様な、全面的に原告の勝訴の判決を下しました。主文は以下の内容でした。

  1. 原告が被告に対し雇用契約上の権利を有することを確認する。
  2. 被告は原告に対し732,000円及び昭和41年2月以降毎月二七日限り各22,000円を支払え。
  3. 訴訟 費用は被告の負担とする。
  4. 第2項は仮に執行することができる。

判決理由の要点は以下の内容です。(長くて、しかも読みづらい文章なので、パスしたい方は赤字のパスをクリックして下さい。

 

  1. 結婚退職制は、女子労働者のみの解雇事由であるから、労働条件につき性別による差別待遇をしたことに帰着し、また女子労働者の結婚の自由を制限するものである。
  2. (性別による差別待遇の禁止について)両性の本質的平等を実現すべく、国家と国民との関係のみならず、国民相互の関係においても、性別を理由とする合理性なき差別待遇を禁止することは、法の根本原理である。憲法14条は国家と国民との関係において、民法1条の2は国民相互の関係において、これを直接明示する。労働基準法3条は、国籍、信条または社会的身分を理由とする差別を禁止し、同法4条は性別を理由とする賃金の差別を禁止する。労働基準法は、性別を理由とする労働条件の合理的差別を許容するが、右の根本原理にかんがみるとき、合理性を欠く差別は禁止するものと解せられる。この禁止は、労働法の公の秩序を構成し、労働条件に関する性別を理由とする合理性を欠く差別待遇を定める労働協約、就業規則、労働契約は、いずれも民法90条に違反し、その効力を生じないというべきである。
  3. (結婚の自由の保障について) 家庭は、国家社会の重要な一単位であり、法秩序の重要な一部である。適時に適当な配偶者を選択し、家庭を建設し、正義衡平に従った労働条件のもとに労働しつつ、人たるに価する家族生活を維持発展させることは、人間の幸福の1つである。かような法秩序の形成ならびに幸福追求を妨げる政治的・経済的・社会的要因のうち、合理性を欠くものを除去することも、また法の根本原理であって、憲法13条、24条、25条、27条はこれを示す。したがって、配偶者の選択に関する自由、結婚の時期に関する自由等、結婚の自由は、重要な法秩序の形成に関連し、かつ基本的人権の1つとして尊重されるべく、これを合理的理由なく制限することは、国民相互の法律関係にあっても、法律上禁止されるものと解すべきである。この禁止は、公の秩序を構成し、これに反する労働協約、就業規則、労働契約は、いずれも民法90条に違反し、効力を生じないというべきである。
  4. (結婚退職制の合理性について)被告会社の主張が認められるためには、女子の結婚後における労働能率の低下の程度が同一の条件の下における男子より甚だしいこと、その原因は少くとも使用者側および国家社会の側に存せず、専ら女子労働者の結婚という事実のみに存すること、を立証すべきであるが、それは十分ではない。能率低下の原因が専ら当該女子労働者に存するときは、労働協約または就業規則等に定める所要の処置を個別的にとれば足るわけで、勤務成績の優劣をとわず、一律に企業から排除することは合理性がない。永年勤続により、補助的事務を担当する女子職員の賃金が男子に比して不相応に高額となるという点も、年功賃金制のもたらす欠陥であり、職務ないし労働の価値に応じた合理的な賃金体系を制定することにより是正できる問題である。また、前示補助的事務の内容自体に徴しても、特定宗教における聖職者、巫女等と異なり、これに従事する者を独身者に限定しなければならぬ理由はなく、その他結婚退職制に合理性を認めるに足りる資料はない。

 

この判決を不服とし、被告会社は控訴しましたが、1968年(昭和43)8月には女性結婚退職者制を廃止することを含めた和解が成立しました。また、この事件後の1972年(昭和47)7月に施行された勤労婦人福祉法(現在の男女雇用機会均等法)第9条では、女性結婚退職者制の禁止が定めらました。

 

半世紀前の判決で上げられた結婚退職制の合理性を認めうるものとして、特定宗教における聖職者や巫女を挙げていますが、例えばAKB48等の団員なども合理性が認められるか否かについては検討が必要であるかもしれませんね。

 

2.過去年の記事

過去には、こんな記事を書いていました。こちらも併せて御覧下さい。

今日はここまでです。

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